待ち人/プロローグ旅人の日常シリーズ1/プロローグ 【血が苦手な方は避けてください】 << 待ち人 >> こびり付いた血は、すでに乾いてどす黒く変色している。周囲に広る、血の歪んだ匂いが流した量を語っている。 ああ、もうすぐだ。 もうすぐ会える。 最奥まで乾いた喉は息をする度痛みが伴う。 痛くて、痛くて、喉をかきむしる。伸びた爪に血が溜まり、血管を模して胸元へと流れる。微かに出た声は口内の鉄の味を更に強くした。 幾千流した涙はいくつ貴方に届いたのだろう。永久に彷徨う雫はやがて天へと登り、雨となり、他の生命の繋ぎとなり、力となる。 強く風が吹き、髪がなびく。まどろんだ瞳で見つめた先には世界の果ての地平線。 腰を下ろしていた身体が、ゆっくりと地へと落ちていった。 霞んだ視界に、塗れながらも未だ光輝く短剣を見る。 もうすぐ……。 緩い動作で、だが確実に瞼が落とされる。 ふいに、こびり付き離れなかった、錆びた匂いがしなくなった。 変わりに匂う狂喜の香り。 それは目印。 それは証拠。 ほら、甘い甘い、花の香りが鼻をくすぐる。 やっと見つけた愛する人。 自然と緩む口角で笑みを作る。 最後の力を振り絞り乾いた口を開けた。 『―――今行くよ』 時の旅人/前編へ 【ブラウザでお戻り下さい】 |